リアリティを追求したアクションとともに、極限状態での心理や人間ドラマが丹念に描かれ、歴史の惨劇、悲劇、現実を生々しく伝える戦争映画。
今回は、史上最多の死者を出したといわれる第一次世界大戦までさかのぼり、激戦の第二次世界大戦、太平洋戦争、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)、ジャングルを舞台にした過酷なベトナム戦争、そしてイラクやアフガニスタンで今なおくすぶる中東紛争と、それぞれを舞台にした戦争映画18作品を紹介しましょう。
戦争映画おすすめ18選! 日本、太平洋、ベトナム、イラクの激戦を体感!【2021年版】
最終更新日:2021年02月05日
第一次世界大戦
『1917 命をかけた伝令』
2019年製作/119分/イギリス・アメリカ合作原題:1917
配給:東宝東和
監督:サム・メンデス
出演:ジョージ・マッケイ/ディーン=チャールズ・チャップマン/マーク・ストロング
ストーリー
第一次世界大戦真っただ中の1917年4月。ドイツ軍と連合国軍の睨み合いが続く激戦地・西部戦線で、イギリス人兵士のスコフィールドとブレイクは重要な任務を命じられる。それは、最前線にいる味方の部隊へ翌朝までに作戦中止を伝えること。無線が途切れるなか、彼らの伝令には、ブレイクの兄を含む1,600名もの味方の命がかかっていた。
伝令が戦地を駆ける姿を全編ワンショットで活写
カット割りによる場面転換を行わず、戦場を命懸けで駆ける主人公の姿をワンショット映像でとらえた作品です。
自陣の塹壕から敵陣へ歩を進める冒頭シーンから、敵の姿が見えない不気味な静けさに恐怖が掻き立てられ、死臭までもが漂い来るような感覚に陥ります。さらにその後、爆破、墜落、接近戦、爆撃と、敵の占領地を駆ける主人公に、数々の困難がまさに“切れ目なく”襲います。
カメラアングル、人の配置、爆撃のタイミングなど、計算され尽くした撮影・編集に「どうやって撮影した?」という興味が募りますが、そうした邪念もすぐさまかき消され、戦場の緊迫、過酷さ、そして戦争に翻弄される人間たちの心理やドラマに没入させられます。
この圧倒的な臨場感を紡ぎ出した制作陣にただただ感服。後世まで語り継がれる、戦争映画の新たな金字塔です。
『戦火の馬』
2012年製作/147分/アメリカ原題:War Horse
配給:ディズニー
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:ジェレミー・アーバイン/エミリー・ワトソン/デビッド・シューリス
第84回 アカデミー賞(2012年)
ストーリー
第一次世界大戦前夜のイギリス。農家の青年アルバートは、美しい農耕馬のジョーイと固い絆で結ばれていた。しかし、戦争が幕を開け、ジョーイはイギリス軍の軍馬として戦場に送られてしまう。アルバートはジョーイを追うために入隊し、激戦地のフランスへ向かうが…。
戦場を駆けた農耕馬・ジョーイの奇跡
軍馬として戦地に送り込まれた農耕馬・ジョーイの目線から、第一次世界大戦の激戦をとらえた戦争ドラマ。飼い主の青年、イギリス人将校、ドイツ軍の幼い兄弟兵、両親を亡くしたフランス人少女など、ジョーイが巡りあう戦火の人々の数奇な運命を映し出します。
第一次世界大戦時、イギリスでは膨大な数の農耕馬が軍馬として徴用され、武器や物資を牽引するという過酷な労働に駆り出されました。
本作ではそうした“知られざる馬の戦場”を目の当たりにし、馬と人間の稀有な友情が感情を揺さぶります。そして、ジョーイの気品に満ちた佇まいと無垢な瞳が、戦火に包まれた人間の愚行や悲哀を観る者に訴えかけます。
『彼らは生きていた THEY SHALL NOT GROW OLD』
2018年製作/99分/イギリス原題:They Shall Not Grow Old
配給:アンプラグド
監督:ピーター・ジャクソン
ストーリー
1914年、第一次世界大戦が開戦し、イギリス各地では募兵を呼び掛けるポスターが多数掲出される。志願資格は19歳から35歳だったが、19歳に満たない若者も年齢をごまかして多数入隊した。彼らは6週間ほどの訓練を経てフランスに入り、西部戦線へ。ついに突撃の日を迎え、ドイツ軍の陣地へ前進するが…。
ピーター・ジャクソン監督によるドキュメンタリー
「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのピーター・ジャクソン監督による渾身の戦争ドキュメンタリー。
イギリス帝国戦争博物館に所蔵されていた第一次世界大戦における西部戦線のモノクロ映像を最新技術によってカラーリングし、退役軍人たちのインタビュー音源を重ね合わせて復元・編集。
塹壕での過酷な兵役や暮らし、戦士した仲間たちの埋葬、大地をえぐる爆撃、戦車による突撃など、100年以上前とは思えないほど当時の情景が鮮明に映し出されています。
過酷な戦場風景を生々しく伝える映像のみならず、兵士たちが食事や休息を楽しむ光景もとらえ、過酷ななかでも笑顔を見せる兵士たちの素の姿が印象的です。
前述の『1917 命をかけた伝令』『戦火の馬』を鑑賞し、第一次世界大戦の激戦にふれた後に本作を観ると、よりいっそう彼らの表情が胸に迫るはずです。
第二次世界大戦
『ダンケルク』
2017年製作/106分/アメリカ原題:Dunkirk
配給:ワーナー・ブラザース映画日本初公開配給:2017年9月9日
監督:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド/トム・グリン=カーニー/ジャック・ロウデン
第41回 日本アカデミー賞(2018年)
ストーリー
ドイツ軍の侵攻の勢いが増した第二次世界大戦下の1940年。フランス北部の港町・ダンケルクでは、英仏連合軍の兵士40万人がドイツ軍によって追い詰められていた。ドーバー海峡を挟んだイギリスでは対岸の彼らを救うため、民間船をも総動員した救出作戦が決行される。
ノーラン監督が史上最大の救出作戦を映像化
『インターステラー』『TENET テネット』のクリストファー・ノーラン監督が、戦争史上最大の救出劇といわれる「ダイナモ作戦」を圧倒的な臨場感とともに描き出した戦争ドラマ。
ドイツ軍の戦闘機や戦車による砲撃にさらされ、逃げ場を失った兵士たち。その様子を陸海空から縦横無尽に映し、絶体絶命の状況に陥った彼らの焦りや消耗、息遣い、鼓動までとらえた映像、耳をつんざくような爆撃や銃撃の音響が、観る者を激戦地へ放り込みます。
鑑賞後もしばらく放心状態に陥ってしまうほど、緊張が続きっぱなしの99分間です。
『フューリー』
2014年製作/135分/アメリカ原題:Fury
配給:KADOKAWA
監督:デビッド・エアー
出演:ブラッド・ピット/シャイア・ラブーフ/ローガン・ラーマン
第38回 日本アカデミー賞(2015年)
ストーリー
1945年4月。シャーマン戦車“フューリー号”を駆る連合国軍の米兵、“ウォーダディ(戦争おやじ)”ことドン・コリアーのチームに、戦闘経験のない新兵ノーマンが配置される。5人となったチームはドイツ軍との激戦を切り抜けながら絆を深めるが、彼らの前にドイツ軍の最新兵器、ティーガー戦車が立ち塞がる。その難局を乗り切った彼らに、新たにドイツ軍300人を迎え撃つというミッションが下され…。
たった1台の戦車で300人のドイツ部隊と対峙
たった1台の戦車で300人ものドイツ軍精鋭部隊との戦いに挑んだ5人の兵士たちの絆と死闘を描写。とりわけ、極限状態の中で繰り広げられる独米による戦車戦の迫力は圧巻です。
ドイツ最強戦車・ティーガー戦車の戦闘シーンでは、現在実際に走行できるのは世界でわずか1台という現存のティーガー戦車を使用。“独ティーガー戦車VS米シャーマン戦車”の戦車戦がとびきりのリアリティで描かれ、ミリタリーファンの間でも話題になりました。
こうしたアクションに加え、5人の兵士たちの固い絆にも心が揺さぶられ、命を懸けた彼らの姿から戦争の悲惨さ、非情さが生々しく伝わってきます。
『プライベート・ライアン』
1998年製作/170分/アメリカ原題:Saving Private Ryan
配給:UIP
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス/トム・サイズモア/エドワード・バーンズ
第22回 日本アカデミー賞(1999年)
ストーリー
1944年6月、連合国軍はフランス・ノルマンディ上陸作戦を激戦の末に成功させた。その熾烈な戦いを生き延びたジョン・ミラー大尉に新たな命令が下される。それは、4兄弟のうち3人が戦死したライアン家の末っ子、ジェームズ・ライアン2等兵を探し出し、本国に帰還させよというものだった。
冒頭の戦闘シーンは映画史に残るインパクト
スティーブン・スピルバーグ監督が徹底的にリアリティを追求し、多くの命を削り取る戦場の惨劇を浮き彫りにした作品。
なかでも冒頭約20分のノルマンディ上陸作戦の戦闘シーンには、情を排除したリアリティが凝縮。兵士目線でとらえたカメラアングル、重層的に響く銃撃音によって、観る者も命懸けでボートから上陸する兵団の一部になった感覚に陥ります。
陸で迎撃するドイツ軍による掃射、手足が吹き飛んだ兵士、内臓が飛び出した兵士、炎に包まれる兵士などが容赦なく描写され、戦場が死の現場であることをまざまざと見せつけます。
こうした激戦で仲間の命が次々と失われるなか、ミラー大尉は命の重さについて何を思うのか、その心情を考えると胸がえぐられます。
『ヒトラー ~最期の12日間~』
2004年製作/155分/ドイツ原題:Der Untergang
配給:ギャガ
監督:オリバー・ヒルシュビーゲル
出演:ブルーノ・ガンツ/アレクサンドラ・マリア・ララ/コリンナ・ハルフォーフ
第77回 アカデミー賞(2005年)
ストーリー
1945年4月20日、ベルリンがソ連軍に包囲され、ナチス・ドイツは窮地に陥っていた。ナチス総統のヒトラーは首相官邸の地下要塞に退去し、ヒトラーの個人秘書ユンゲもその後に続く。彼女はそこで冷静さを失っていくヒトラーの姿を目の当たりにする。
独裁者ヒトラーの知られざる苦闘を描写
ヒトラーが愛人・エヴァとともに自らの命を絶つまでの12日間を描き、彼の人間像に焦点を当てたことがドイツ国内で議論を呼んだ問題作。
ソ連軍の包囲網が迫るなか、自軍の戦力を過大評価し、髪を振り乱しながら部下たちに徹底抗戦を指示するヒトラー。その一方で、秘書の女性には優しく接し、首相の子どもたちからは「おじさん」と慕われるヒトラー。
最期の12日間に立ち会った個人秘書ユンゲの回顧録を原作に、そうした多面的なヒトラー像を知ることのできる貴重な作品です。
太平洋戦争
『日本のいちばん長い日』
2015年製作/136分/日本
配給:松竹、アスミック・エース
監督:原田眞人
出演:役所広司/本木雅弘/松坂桃李
ストーリー
太平洋戦争末期の1945年7月、連合国は日本にポツダム宣言の受諾を要求する。総理大臣の鈴木貫太、陸軍大臣の阿南惟幾らは連日閣議を開くが、降伏か、決戦かの結論は出ない。やがて広島、長崎に原爆が投下され、事態は悪化するが、陸軍の若手将校たちは阿南に戦争継続を強く迫り…。
日本が降伏を決断した舞台裏に切り込む
骨太なドラマに定評のある原田眞人監督が、半藤一利の傑作ノンフィクション『日本のいちばん長い日 決定版』を原作に、1945年8月15日の玉音放送によって戦争降伏が発せられるまでの舞台裏をスリリングに活写。
“一億玉砕論”まで議題に上る窮地に、鈴木首相や阿南陸軍大臣、そして昭和天皇はどう決断に至ったのか、若手将校たちはどう受け入れたのか、あるいは受け入れなかったのか。
1945年8月14日の御前会議から翌15日の玉音放送に至るまで、まさに“日本でいちばん長い日”の顛末を描き切ります。
『硫黄島からの手紙』
2006年製作/141分/アメリカ原題:Letters from Iwo Jima
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙/二宮和也/伊原剛志
ストーリー
1944年6月、日本の本土防衛のための最重要拠点・硫黄島に、栗林忠道中将が新たな指揮官に着任する。アメリカ留学を経験した栗林は、合理的な考えによって軍の体制を変えていく。上官の体罰に苦しめられていた西郷ら兵士たちも、かすかに希望の光を見いだすが…。
パン職人だった男が激戦地・硫黄島で苦闘
クリント・イーストウッド監督が硫黄島の激戦を日米双方の視点から描いた2部作のひとつで、栗林忠道中将が家族に宛てた手紙をまとめた『「玉砕総指揮官」の絵手紙』を基にした作品。
硫黄島の激戦に散った兵士たちの苦闘や素顔が赤裸々に描かれ、兵士一人ひとりに戦争や死への向き合い方があり、家族への想いがあることを痛切に知らされます。
なかでも目が離せないのは、二宮和也が演じた下級兵士・西郷。妻とともにパン屋を営んでいた彼は、身ごもった妻を残し戦地に駆り出されます。戦地での彼の振る舞いは、極限状態にありながらもどこか冷めたように見え、でも生きることを諦めない強さを内包しているのです。
そうした等身大の日本兵の姿が、胸に刻まれます。
『ハクソー・リッジ』
2016年製作/139分/アメリカ・オーストラリア合作原題:Hacksaw Ridge
配給:キノフィルムズ
監督:メル・ギブソン
出演:アンドリュー・ガーフィールド/サム・ワーシントン/ルーク・ブレイシー
第74回 ゴールデングローブ賞(2017年)
ストーリー
衛生兵として国に尽くすために陸軍へ志願したデズモンド。「汝、殺すことなかれ」という教えを大切にしてきた彼は、訓練中もかたくなに武器に触れず、軍法会議にかけられてしまう。だが、思わぬ助力を得た彼は主張を認められ、沖縄戦の激戦地、ハクソー・リッジに赴くことに。そこには、阿鼻叫喚の惨状が広がっていた。
沖縄の断崖絶壁で奮闘した衛生兵の実話
150メートルもの断崖絶壁が侵攻を阻み、苦戦を強いられたアメリカ軍から「ハクソー・リッジ(のこぎり崖)」と呼ばれた沖縄の前田高地。そこに衛生兵として着任し、たった1人で75人もの命を救ったデズモンド・ドスの実話を描いた作品です。
アメリカ部隊が崖を登るや否や、銃撃が容赦なく襲い掛かり、次々と兵士が倒れていく、まさに地獄絵図の戦場。それでも“人を殺さない”という信念を曲げず、敵味方を問わず瀕死の兵士たちを救おうとしたデズモンドの“強さ”が胸を打ちます。
メル・ギブソン監督がこの沖縄戦の知られざるドラマを描き、世界各国の映画祭で賞賛を集めた力作です。
ホロコースト
『シンドラーのリスト』
1993年製作/アメリカ原題:Schindler's List
配給:UIP
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:リーアム・ニーソン/ベン・キングズレー/レイフ・ファインズ
ストーリー
1939年、ナチス・ドイツが占領するポーランドで、ドイツ人実業家のシンドラーはドイツ軍上層部に取り入り、軍需工場を立ち上げて成功を収める。彼が工場で雇っていたのは、賃金の安いユダヤ人の労働者たちだった。やがてナチスによるユダヤ人虐殺の光景を目の当たりにしたシンドラーは、彼らの命を救うために画策する。
虐殺から多くの命を救った実業家を描く
スティーブン・スピルバーグ監督が長年の構想を形にし、ナチス党員だったシンドラーが1,200人近いユダヤ人の命をホロコーストから救った実話を映画化。
全編モノクロ映像によって、感情を押し殺したかのような静かなタッチで物語が綴られています。
それゆえに、ナチスによるユダヤ人居住区の容赦ない解体、強制収容所での非情な虐殺、息をするように人を殺すナチ将校たちの姿、そしてユダヤ人たちの怒りと諦めがないまぜになった目など、ホロコーストの奥底が鮮明にあぶり出され、心に焼き付きます。
『縞模様のパジャマの少年』
2008年製作/95分/イギリス原題:The Boy in the Striped Pyjamas
配給:ディズニー
監督:マーク・ハーマン
出演:エイサ・バターフィールド/ジャック・スキャンロン/ベラ・ファーミガ
ストーリー
第二次世界大戦下のドイツ。8歳の少年ブルーノはナチス将校の父の昇進を機に田舎に引っ越すことになる。退屈しのぎに森を抜け、有刺鉄線のフェンスに囲まれた農場にたどり着いた彼は、そこで、縞模様のパジャマを着た少年シュムエルと出会う。ふたりはフェンス越しに友情を育んでいくが…。
強制収容所の柵を隔てた少年2人の友情と悲劇
強制収容所で働くナチス将校の父親のもとで裕福に暮らすブルーノと、父親とともに強制収容所に収監されたシュムエル。そんな父親たちの状況を知るよしもない無垢な少年ふたりの友情が、やがてとんでもない運命を引き寄せてしまいます。
残虐なシーンの描写をあえて抑え、純真な少年ふたりの目線からホロコーストの歪みを描いた作品。ラストにはずっしりと重く、やるせない感情が押し寄せるとともに、幼い友情の尊さが胸に刻み込まれます。
ベトナム戦争
『地獄の黙示録』
1979年製作/147分/アメリカ原題:Apocalypse Now
配給:boid日本初公開配給:1980年2月16日
監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランド/ロバート・デュバル/マーティン・シーン
第4回 日本アカデミー賞(1981年)
ストーリー
1960年代末、サイゴンに滞在するウィラード大尉は、軍上層部から特殊任務を命じられる。それは、カンボジア奥地のジャングルで軍規を無視して自らの王国を築いたカーツ大佐の暗殺命令だった。ウィラード大尉は部下たちとともに哨戒艇で川を遡るが、行く先々でベトナム戦争の異様さを目の当たりにする。
ジャングルを舞台に異様さと狂気に満ちた傑作
フランシス・フォード・コッポラ監督が「ゴッドファーザー」シリーズで稼いだ私財をも投げ打ち、ジャングルでの過酷を極めた撮影の末に作り上げた戦争映画の金字塔です。
現地の村を襲ってはサーフィンに興じる中佐、ワーグナーをかき鳴らしてナパーム弾を投下するヘリコプター、麻薬に溺れて村人を殺戮する兵士など、戦争が引き起こす狂気を描き切り、その光景の数々は熱狂ともいえるほどの異様さに満ち溢れています。
1979年製作版にくわえ、2001年にはカットシーンを加えて再編集した『地獄の黙示録 特別完全版』、2020年にはさらに再編集とデジタル修復を施した『地獄の黙示録 ファイナル・カット』が公開。いずれも配信で視聴できるので、あわせて体感してみてください。
『プラトーン』
1986年製作/120分/アメリカ原題:Platoon
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:オリバー・ストーン
出演:トム・ベレンジャー/ウィレム・デフォー/チャーリー・シーン
ストーリー
大学を中退してアメリカ陸軍に志願し、ベトナムにやってきたクリス。最前線の小隊『プラトーン』に配属された彼は、想像を超えた戦場の過酷さを目の当たりにする。戦いの鬼と化した冷酷非情な隊長バーンズ、人の心を残した班長のエリアスらとともに彼は戦火へ身を投じていく。
アメリカ兵の現実を赤裸々に描いた衝撃作
ベトナム戦争に兵士として従軍した経験を持つオリバー・ストーン監督が、自らのベトナムでの実体験をもとに作り上げた作品です。
ベトナムの民間人への暴力や虐殺、米兵同士による殺人、米兵たちの麻薬中毒など、監督が戦場で目にした「現実」を包み隠さず盛り込み、戦争によって善悪の拠り所を失った兵士たちの姿を赤裸々に描き出します。
撮影前には、出演するキャストたちがキャンプを行い、ベトナム戦争当時の兵士たちの生活や軍事訓練を体験して自分たちを追い込んだとか。オリバー・ストーン監督がそれほどまでに現実の描写にこだわり、伝えたかった思いがほとばしる傑作です。
『フルメタル・ジャケット』
1987年製作/116分/アメリカ原題:Full Metal Jacket
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:スタンリー・キューブリック
出演:マシュー・モディーン/アダム・ボールドウィン/ビンセント・ドノフリオ
第12回 日本アカデミー賞(1989年)
ストーリー
ベトナム戦争最中。アメリカ海兵隊に志願した新兵たちは、ハートマン軍曹のもとで地獄のような厳しい訓練を強いられる。不器用な新兵パイルは訓練所でもドジを繰り返し、ある日、連帯責任として彼以外の訓練兵全員が懲罰を食らうことに。次第に同期からもリンチに遭い、パイルの精神は崩れていく。
キューブリックが海兵隊員の極限を描写
スタンリー・キューブリック監督による戦争ドラマ。前半では海兵隊の訓練キャンプでの過酷な日々を描き、軍曹の口汚い罵りと暴力によって新兵の自我が崩壊していく様を描写。一方、後半では訓練を終えた兵士たちがベトナムに渡り、過酷を極める戦場で暴力に墜ちていく姿が描かれます。
過酷な訓練によって人間性を剥がされ、兵士として殺戮の現場に送り込まれるごく普通の青年たち。戦場ではさらに彼らの人間性が失われていきます。
その過程が時にユーモアも交えながら描かれていくことで、逆に怖さを助長し、人間の秘めた残虐性や凶暴性に対する恐怖が全身を駆け巡ります。
中東紛争
『ローン・サバイバー』
2013年製作/121分/アメリカ原題:Lone Survivor
配給:東宝東和、ポニーキャニオン
監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ/テイラー・キッチュ/エミール・ハーシュ
第86回 アカデミー賞(2014年)
ストーリー
2005年6月、アメリカ海軍特殊部隊のネイビー・シールズは、タリバン幹部アフマド・シャー殺害を目的としたレッド・ウィング作戦を決行する。マーカスら4人のシールズ兵士は、タリバン兵偵察のためにアフガニスタンの山岳地帯に降り立つが、やがて200人以上ものタリバン兵の攻撃にさらされてしまう。
4人のシールズ隊員VS200人超のタリバン兵
ネイビー・シールズ創設以来、最悪の惨事といわれるレッド・ウィング作戦の惨劇を描いた戦争アクション。惨事から唯一生還したマーカス・ラトレルが記した『アフガン、たった一人の生還』を基に、極限状態に陥った兵士たちの緊迫の死闘を描き出します。
ある決断が最悪の事態を招き、予期せぬ方向に転がり落ちる兵士たち。彼らの後悔や葛藤がひりひりと伝わり、山岳で繰り広げられる戦闘は、息をつくことも忘れてしまうほど熾烈の極みです。
乾いた空気に突き刺さる銃声、山岳に響き渡る爆発音、兵士たちの呼吸音など、戦地を再現した音響効果も見事で、観る者を戦場の緊迫感に包み込みます。
『ハート・ロッカー』
2008年製作/131分/アメリカ原題:The Hurt Locker
配給:ブロードメディア・スタジオ
監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェレミー・レナー/アンソニー・マッキー/ブライアン・ジェラティ
第34回 日本アカデミー賞(2011年)
ストーリー
2004年夏のイラク・バクダッド郊外で、爆弾の処理を専門とするアメリカ軍爆発物処理班。任務中の爆発で殉職者が出たため、新リーダーとしてウィリアム・ジェームズ二等軍曹が招聘される。死を恐れないかのように、基本的な安全対策を省いて爆弾処理をこなす彼に、兵士たちは不安を募らせていく。
イラク戦時下の爆発物処理の最前線を活写
仕掛けられた爆弾の解体にあたる爆発物処理班の姿は周囲から注目を集め、誰がいつ起爆させてもおかしくありません。まさに死と隣り合わせ。その描写は兵士たちの息遣いや喉の渇き、爆破の爆風や地の震えまで観る者に体感させるほどのリアリティと緊迫感に満ちています。
主人公のジェームズは、そうしたスリルに取りつかれたかのように爆弾に躊躇なく近づき、自らを危険な状況に追い込みます。その姿は死を間近に感じてこそ、生の実感を得られると考えているかのよう。彼の部下の中には死の恐怖に耐えきれず、感情を爆発させてしまう兵士もいるほどです。
本作ではそうしたイラク戦最前線の兵士たちの心理にも迫り、戦争が彼らの心に及ぼした爪痕まであぶり出します。苦痛の極限地帯を意味する「Hurt Locker」というタイトル通りの作品です。
『グリーン・ゾーン』
2010年製作/114分/アメリカ原題:Green Zone
配給:東宝東和
監督:ポール・グリーングラス
出演:マット・デイモン/グレッグ・キニア/ブレンダン・グリーソン
ストーリー
アメリカを中心とする連合国軍によって制圧されたイラクの首都バグダッド。ミラー上等准尉は、イラクが保持するとされる大量破壊兵器を捜索する極秘任務に就いていた。しかし、捜索すれども兵器の痕跡すら掴めない状態が続き、ミラーは情報の信憑性を疑い始める。
極秘任務についた米軍兵士に迫る陰謀
2003年3月、連合国軍のイラク侵攻によってフセイン政権が崩落し、イラクはアメリカの占領下に置かれました。本作ではその直後のイラクを舞台に、侵攻の引き金となった大量破壊兵器の存在を巡る陰謀に焦点が当てられています。
現場の兵士と国防総省、CIAの思惑が絡み合うスリリングな展開にして、アメリカ占領下のイラクをとらえた描写がリアルで、戦闘の緊迫感や臨場感も迫真。
「大量破壊兵器はあったのか?」というイラク侵攻を語るうえで避けられないテーマに切り込んだ意欲作であり、日本人の記憶にも新しい戦争の裏側を垣間見られるとともに、サスペンスやアクションの面白さも味わえる作品です。