映画で使われる「オマージュ」とは何か? それは「パクリ」でもなければ「パロディ」でもない。
主に映画監督が影響を受けた既存の作品に対する敬意を表し、劇中にこっそり既存作品を連想させるようなシーンを忍ばせる、遊び心のようなものである。
見つけると「この映画のこのシーンの元ネタを知ってる!」と、なんだかちょっぴり映画通になれたような気がするオマージュの世界。数々の映画やドラマで使われたオマージュの一部を覗いてみよう。
映画の中のオマージュを発見する楽しさ 『戦艦ポチョムキン』『プライベート・ライアン』
最終更新日:2024年10月09日
映画作品における代表的なオマージュ
まずは、映画好きなら誰もが一度は聞いたことがあるような代表的なオマージュがこちら。
『アンタッチャブル』→『戦艦ポチョムキン』
映画作品におけるオマージュの中で、一番有名であると言っても良いのではないだろうか?
ケビン・コスナーの出世作となった『アンタッチャブル』の印象的なシーンとして、銃撃戦の中、駅の階段を乳母車が落ちていく場面がある。
こちらは映画史上最も有名な6分間と言われる「オデッサの階段」のシーンのオマージュである。『戦艦ポチョムキン』のセルゲイ・エイゼンシュテイン監督が、本来関係のない映像を編集でつなぐことで、連続した前後の映像に関連性を持たせる「モンタージュ理論」を確立した、映画制作に革命をもたらしたワンシーン。
「オデッサの階段」へのオマージュやパロディは、『アンタッチャブル』に限らず『未来世紀ブラジル』『ウディ・アレンのバナナ』『13日の金曜日 PART2』など多くの映画で使われているが、印象的なワンシーンとして最も効果的に使ったのは『アンタッチャブル』であろう。
ケビン・コスナーの「狙いは?」の問いかけに対して、「バッチリです」と色気たっぷりに答えるアンディ・ガルシアの最高にセクシーなやり取りと共にぜひ観てほしい。
『アンタッチャブル』
ブライアン・デ・パルマ監督がケヴィン・コスナーやショーン・コネリーなど豪華キャストを迎えて、アル・カポネ逮捕に挑んだ男たちを描くクライム・アクション。禁酒法時代のシカゴ。実在したギャングのアル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)によって街全体が支配され、警察も賄賂で腐敗していた。財務省からやってきたエリオット・ネス(ケヴィン・コスナー)はカポネを摘発すべく、署内で買収されていない信頼できるメンバーを集めてチームを結成。「アンタッチャブル」と呼ばれるそのチームは、アル・カポネの悪事を暴くためギャングとの熾烈な戦いに身を投じていく。
『戦艦ポチョムキン』
セルゲイ・エイゼンシュテイン監督が、みずから確立したモンタージュ理論を実践して27歳で作り上げ、その後の映画史に多大な影響を与えた先駆的傑作。革命の気運高まる20世紀初頭のロシア。オデッサの港に停泊中の戦艦ポチョムキンの水兵たちが、食事用の肉にウジ虫が湧いていたことから現地の住民を巻き込み反乱を起こす。
『ラ・ラ・ランド』→歴代ミュージカル映画
史上最年少の32歳でアカデミー賞の監督賞を受賞したデイミアン・チャゼル。2016年にライアン・ゴズリング、エマ・ストーンが出演したミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』は、デイミアン・チャゼルのミュージカル映画への愛にあふれている。
『ラ・ラ・ランド』は映画のオープニングからクラシカルなハリウッド黄金期の匂いを漂わせているが、デイミアン・チャゼルが劇中に仕込んだ数々のオマージュは、『ラ・ラ・ランド』を通じて観客とミュージカル映画について語り合いたい、という想いが伝わってくる。
『ラ・ラ・ランド』→『雨に唄えば』
ロサンゼルスの夜景が見える丘でライアン・ゴズリングが街灯に手をかけて「A Lovely Night」を歌いはじめるシーンは、『雨に唄えば』でジーン・ケリーが雨の中でタップダンスをしながら「黒い雲に笑いかければ」と街灯に飛び乗って歌うシーンとそっくり。
街灯のデザインを似せたことからも、デイミアン・チャゼル監督が「気づいてね」とウインクしているようにも思える。
『ラ・ラ・ランド』→『ムーラン・ルージュ』
プラネタリウムの世界に引き込まれたセバスチャンとミアが、雲の上でダンスをするシーンは『ムーラン・ルージュ』へのオマージュ。
『ムーラン・ルージュ』では劇作家のクリスチャンが美しい高級娼婦のサティーンと、輝く星を背景に雲の上で「Your Song」を歌いながらダンスするシーンがあるが、雲の上でのエレガントなダンスはそっくりと言って良い。
この他にも『ラ・ラ・ランド』には『ロシュフォールの恋人たち』『シェルブールの雨傘』『理由なき反抗』『ブロードウェイ・メロディー』『パリの恋人』などなど、作品名を挙げるとキリがないほど多くの作品のオマージュが散りばめられている。
『ラ・ラ・ランド』をおもしろいと思った方々は、これらの作品を観てオマージュシーンを探してみてはいかがだろう?
『ラ・ラ・ランド』
第87回アカデミー賞で3部門に輝いた『セッション』のデイミアン・チャゼル監督が、ロサンゼルスを舞台に夢を追う男女の恋を描くミュージカル映画。女優になることを夢見て映画スタジオのカフェで働くミア(エマ・ストーン)は、オーディションを受けるも落ちてばかり。そんな彼女がいつか自分の店を持ち、ジャズを思う存分に演奏したいと願うミュージシャンのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会う。お互いの夢を応援するうちに恋に落ちる2人だったが、夢の実現のためにとセバスチャンが加入したジャズ・バンドが人気を博したことで、2人の恋の歯車が狂いはじめる。
『雨に唄えば』
ジーン・ケリーが主演・監督を務めたミュージカル映画の傑作。サイレント映画でスターになったドン(ジーン・ケリー)とリナ(ジーン・ヘイゲン)は結婚を噂される関係だったが、ドンはリナのつけ上がった態度にうんざりしていた。そんな時、ドンは歌も踊りも上手く美声の新人女優キャシー(デビー・レイノルズ)と出会い恋に落ちる。奇しくもハリウッド映画界がサイレント映画からトーキーの時代に入ったことで、リナの悪声は作品の評判を下げることに。そこで美声のキャシーがセリフも歌も吹き替え作品を世に贈り出すことになるが、リナはそのことに納得がいかず怒りと嫉妬からキャシーを自分の専属吹替担当にすることで、表舞台に出られないよう画策する。
『ムーラン・ルージュ』
ニコール・キッドマン&ユアン・マクレガー共演による悲劇のラブ・ストーリー。19世紀末のパリ。作家志望のクリスチャン(ユアン・マクレガー)は、有名ナイトクラブの「ムーラン・ルージュ」のスターで高級娼婦のサティーン(ニコール・キッドマン)と恋に落ちる。だが、クラブの出資者でもある資産家の公爵もサティーンを狙っており2人の仲を引き裂こうとする。さらに不幸は重なりサティーンを病魔が襲ったことで、2人は別れることになる。
誰も知らない? オマージュをチェック!
一般的には知られていないが、おそらく間違いなくオマージュであろうという作品を紹介。
『プライベート・ライアン』→『橋』
なぜ、このオマージュを取り上げたか? それはスティーヴン・スピルバーグ監督がいかに勉強熱心な人物かを物語っているオマージュだからだ。
『プライベート・ライアン』はアカデミー賞5部門を受賞したスティーヴン・スピルバーグ監督の超大作戦争映画。冒頭20分のオマハ・ビーチ上陸作戦のPOV方式(カメラの視点を劇中内の主観映像とすることでリアリティを演出する)で撮影された生々しい戦闘シーンが有名だが、オマージュが使われているのは物語終盤の最後の戦闘である。
敵地で行方不明になっていたライアン二等兵を前線で見つけるも、ドイツの武装親衛隊の襲撃を受けるアメリカ軍の主人公たち。彼らがドイツ軍を迎え撃つのが、橋を挟んだ最前線の塹壕である。
この橋を間に挟んだ戦いは1959年に西ドイツで制作された戦争映画『橋』へのオマージュ。『橋』は人員不足に陥ったナチス・ドイツに徴兵された7人の少年兵たちが、実は戦局には何の影響も与えない爆破予定の橋を守る悲劇の物語だ。
祖国のために戦おうとする16歳以下の少年たちと、彼らを戦火に巻き込みたくないという願いで戦略上意味がなく、連合軍の攻撃を受けないであろう橋を守らせた隊長。しかし皮肉にもその橋を攻撃する連合軍の戦車部隊。幾重にも重なった悲劇の連鎖により、両親や恋人など愛する人たちのため命がけで橋を守ろうと戦う少年兵たちの最後の戦いは、観る者の魂を揺さぶる名シーンとなった。
ただこの『橋』という映画はなかなかにマイナーな戦争映画で一般的に観られるものではなかった。筆者も映画好きだった父が若いころにフランスで観て、その良さを忘れられずドイツで販売していたVHSを取り寄せて購入したものを観たからたまたま知っていただけだ(字幕は英語すらついていないので言葉は全くわからなかったが、何となく意味は通じていたから不思議だ)。
世界の巨匠たるスティーヴン・スピルバーグである。もちろん、映画制作前にそれなりに研究はするだろうが、富も名声も手に入れた彼がここまでマイナーな映画まできちんと観ていたことには感服した。世界で最も成功した映画監督のひとりとしてではなく、スティーヴン・スピルバーグもまた心から映画を愛する観客なのだと、劇場で封切りされた『プライベート・ライアン』を見た時に感動したものである。
『プライベート・ライアン』
スティーヴン・スピルバーグ監督がトム・ハンクス主演で描いた戦争ドラマ。1944年、第二次大戦中のフランス・ノルマンディーのオハマ・ビーチ。上陸作戦成功後のミラー大尉(トム・ハンクス)は、4人兄弟のうちの3人を戦争で失ったライアン家の四男ジェームズ・ライアン二等兵(マット・デイモン)を激戦地から救出せよという命令を受ける。ミラーは8人編成の部隊を結成し、ライアン二等兵を探すため敵陣深くまで侵入していく。
『橋』
『最後の橋』『牝猫』など俳優として活躍していたベルンハルト・ヴィッキが監督に転身して最初の作品。敗戦濃厚の中部ドイツ。召集されたばかりの16歳以下の少年兵たちは、街に迫るアメリカ軍の進撃もあり、夜突如として非常召集が発せられる。街の出入り口となる橋を守るよう命令を受けた彼らは、大人がいない中、迫り来る戦車部隊を迎え撃つ。一時はアメリカ軍を退けた少年兵たちだったが、徐々に戦力を削られひとりまた一人と散っていく。
『ダブルフェイス 偽装警察編』→『アンタッチャブル』
『アンタッチャブル』では警察内部の裏切り者に手引きされ、警察署員に変装し署内に侵入した殺し屋が、アル・カポネの犯罪を暴く鍵となる重要参考人をエレベーター内で狙う場面がある。このシーンにオマージュを捧げたであろう場面が『ダブルフェイス 偽装警察編』に潜んでいる。
『ダブルフェイス』は大ヒット香港映画『インファナル・アフェア』を香川照之と西島秀俊のダブル主演でリメイクしたサスペンス・アクション。エリート警察官でありながら闇組織のスパイである主人公(香川照之)が、ドラマの終盤、エレベーター内で自身の素性を知る人物に発砲するシーンは『アンタッチャブル』へのオマージュであろう。
闇組織の一員がエリート警察官として偽装生活を送る『ダブルフェイス』の主人公と、警察官に変装した『アンタッチャブル』の殺し屋の共通点を利用し、あえてわかるように重要なシーンでオマージュを使ったと思われる。
原作映画『インファナル・アフェア』と『アンタッチャブル』の悪の力で街を支配するギャングとの抗争という物語の類似点を見事についたオマージュだった。
『ダブルフェイス』
警察と犯罪組織、それぞれに潜入を命じられた2人の男が、やがて宿命的な出会いと対決を迎える姿をスリリングに描いた2002年の香港映画『インファナル・アフェア』のリメイク。警察官でありながら犯罪組織の幹部となった男が主人公の『潜入捜査編』と、犯罪組織から警察へ送り込まれた男が主人公の『偽装警察編』の2本立てのドラマ。
オマージュは映画に新たな楽しみを添えてくれる
映画の中にはたくさんのオマージュが散りばめられている。それは先駆者への敬意であり、連綿と続く映画という歴史を語る上で欠かすことのできない重要なものとなっている。
オマージュを発見するために映画を観るのは本末転倒でナンセンスだが、映画を観ていてふと「このシーン見覚えあるな」と思ったら、鑑賞後の楽しみのひとつとして元ネタを探してみてはどうだろうか?
そこでまた再び出会う作品は、あなたに以前とは違う何かをもたらしてくれるかもしれない。
オマージュを見つけたら教えてください!
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紹介作品の配信先はこちら!
本記事で紹介した映画やドラマの配信先をチェック。『橋』『戦艦ポチョムキン』は2024年9月時点で見放題での配信はありませんでした。