Netflixにて独占配信中の「極悪女王」が話題沸騰中だ。本作は“最恐ヒール”の名をほしいままにし、80年代の女子プロレス界を席巻したダンプ松本の知られざる物語を描いた作品。

Netflixにおいて、世界配信から2週連続で日本の「今日の TOP10(シリーズ)」1位に輝くなど、人気の勢いは止まらないようだ。

なぜ本作は、プロレスをほとんど知らない人の心まで掴むのか。本記事ではその答えについて、紐解いていこうと思う。

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女優たちの本気度が桁違い

Netflixシリーズ「極悪女王」でライオネス飛鳥を演じる剛力彩芽と長与千種を演じる唐田えりかのシーン写真

Netflixシリーズ「極悪女王」に惹きつけられる理由は、なんといっても役者たちの本気度の高さにあるだろう。

例えば第2話では、長与千種を演じる唐田えりかと、ライオネス飛鳥を演じる剛力彩芽の、止まらない張り手の応酬が印象的だ。顔が命であるはずの女優2人が、本気と見間違うほどの気迫で「立てよ おら!」と互いに張り手を炸裂させる。

ここまでの体を張ったやり合いは、今までの民放ドラマなどでは見たことがないといってもいい。また、地上波ではここまで過激なやり合いを行う作品は放送できないだろうが、配信ドラマであるからこそ実現もできているのだろう。いずれにせよ、本作は演者が役をまっとうするレベルがずば抜けている。

Netflixシリーズ「極悪女王」でライオネス飛鳥を演じる剛力彩芽と長与千種を演じる唐田えりかのシーン写真

また、ドラマの序盤から終盤にかけて、キャストそれぞれのプロレスの力量が、目に見えて上がっているのがわかる。モリっとした肩筋など、たくましい体つきに成長しているのも印象的だ。役者はそれぞれ増量に取り組んだそうで、例えば剛力は10kg増やしたとか。そうした部分でも、役にかける気持ちが伝わってくる。

唐田にいたっては、敗者がバリカンで髪を刈られる「敗者髪切りデスマッチ」のシーンで、実際に丸刈りになることも辞さなかったそうだ。

Netflixシリーズ「極悪女王」でダンプ松本こと松本香を演じるゆりやんレトリィバァのシーン写真

そして、主人公を演じるゆりやんレトリィバァは、ダンプ松本こと女子プロレスラーの松本香が、ヒールとして覚醒する前後を別人のように演じ分けているのが印象的。

ゆりやんレトリィバァの演技は高く評価されており、海外メディアの「The New York Times」が「彼女の演技は香の純粋さと凶暴さ、つまり自分の内に秘めたものを誇りに思い、恐れることへの葛藤を捉えている」と評したほどである。

主人公の生きざまからもらえる勇気

Netflixシリーズ「極悪女王」で、ダンプ松本として覚醒する前の松本香を演じるゆりやんレトリィバァのシーン写真

のちにダンプ松本として覚醒する主人公・香の、いわば「合理的ではない人生の選択」に勇気をもらえたという人もいるのではないだろうか。

物語は、香の子供時代から描かれる。金をせびりにときどき家に戻ってくる父親がいるが、普段は母親と妹との貧乏な3人暮らし。決して恵まれているとはいえない生活だ。

そんな香にとって、女子プロレスは生きがいともいえる欠かせないもの。中でもビューティ・ペアとして、プロレスだけでなくレコードデビューも果たしたジャッキー佐藤(鴨志田媛夢)に熱を上げていた。

Netflixシリーズ「極悪女王」のシーン写真

第1話での香は、高校卒業後に母親の紹介先のパン屋に勤めはじめるが、その矢先に「自分の望みに素直になろう」と思い直し、パン屋の制服を脱いでプロレスのオーディション会場に走る。

Netflixシリーズ「極悪女王」のシーン写真

プロレス興行では、ギミック(仕掛け)としてベビーフェイス(善玉)とヒール(悪役)が登場する。香自身は練習生となってからも、ベビーフェイスに憧れていたはずだ。

ところが蓋を開けてみたら、香はヒールである「デビル軍団」に加わることとなり、当初は対戦相手を傷つけ、血を流させることにも戸惑いを隠せなかった。

そんな香も、あるきっかけからヒールとして覚醒。ついには“帰れコール”にも動じないレスラーとなる。ヒールとしての覚悟を決めた香は、向かうところ敵なしの存在に。その姿勢は「極悪同盟は世の中の罵詈雑言を食って生きていくんだよ!」というセリフにも集約されているだろう。

Netflixシリーズ「極悪女王」で、ダンプ松本を演じるゆりやんレトリィバァと、松永俊国役の斎藤工のシーン写真

思うに、ダンプ松本の活躍した80年代は、現代と比べると物事もシンプルだったはずだ。今は受け取れる情報が多い分、いろいろな情報を取捨選択した結果、本来の望みとは離れ、そつなく合理的に振る舞おうとする人も多いかもれない。

そのような人にとっては、単調だが安定したパン屋の正社員を捨て、非合理的に見える選択をした香が花開いていく姿は、まぶしく映るだろう。合理的でない選択をしながら努力を重ねて開花した香の姿に心打たれるから、本作は多くの人の心に響くのではないだろうか。

Netflixシリーズ「極悪女王」で、ダンプ松本を演じるゆりやんレトリィバァのシーン写真

やや脱線はするが、TBSドラマ「不適切にもほどがある!」は、昭和のダメおやじが現代にタイムスリップし、不適切な発言によって令和の停滞した空気をかき回していく「意識低い系コメディ」として、話題になった作品。

両作の共通点として、古くて新しい昭和的な価値観や思考が、「本心を言ってくれた」「そう思ってた!」などと感じられ、心に響くという側面もあるだろう。

本心のままに生きるのは、本来人間にとってストレスのない、望ましい生き方であるはずだ。ただ、実際にはそうすることが難しい局面も多いので人はジレンマを感じるのだが、「極悪女王」や「不適切にもほどがある!」は、そうした意味でスカっと感がある。

爽やかな成長物語+アクションの二軸で楽しめる

Netflixシリーズ「極悪女王」に出演するゆりやんレトリィバァ(ダンプ松本役)、唐田えりか(長与千種役)、剛力彩芽(ライオネス飛鳥)のシーン写真

「極悪女王」は、80年代当時のプロレスの盛り上がりのみならず、プロレス自体を知らない人でも大いに楽しめる内容となっている。コンパクトな5話構成ながら、特に序盤では主要キャラクターのバックボーンや、プロレスラーとして人気が出る以前もしっかりと描いており、いきなりプロレスから入りすぎないのも、初心者が作品に感情移入しやすい理由のひとつといって良い。

実際に物語の序盤は、香(ゆりやんレトリィバァ)と千種(唐田)が、出来損ない同士として過酷な練習やいじめにも負けずに「強くなるしかない」と友情を深めていくシーンが印象的。このあたりは、どこにでもいる少女の成長物語として、プロレスに関係なく楽しめる部分だ。

Netflixシリーズ「極悪女王」のシーン写真

中盤では、厳しい縦社会の中でも先輩レスラーに譲らず、型破りな激しい戦い方に挑んで印象的な試合を行った千種(唐田)と飛鳥(剛力)の姿に、彼女たちの成長を感じて心打たれた人も多いだろう。

また、本作の脚本は鈴木おさむが手掛けており、シリアスになりすぎずテンポ良く話が展開されるところも、多くの人の心を捉える理由のひとつではないだろうか。

Netflixシリーズ「極悪女王」の唐田えりかに指導を行う長与千種の写真

「極悪女王」は、アクションシーンも見応え抜群。それもそのはず、なんと長与千種本人がプロレススーパーバイザーとして女優たちを指導しているのだ。

さらに総監督を務めたのは、「凶悪」や「孤狼の血」などで知られ、アウトローな世界を描くことに長けた白石和彌。例えば、ダンプ松本が相手選手に突き立てたフォークが刺さる痛々しい流血シーンなども、直視できないほど極めてリアルに表現されている。

Netflixシリーズ「極悪女王」のシーン写真

なお、10月3日からは、Netflix公式YouTubeチャンネルにおいて、ゆりやんレトリィバァをはじめとする出演者や白石監督、長与本人らが、それぞれ本作にまつわる思い出の場所で制作の舞台裏を語るドキュメンタリー動画が公開されているので、ぜひ見てほしい。

スター選手ぞろいの、熱狂の時代を垣間見られる面白さ

Netflixシリーズ「極悪女王」のシーン写真

「極悪女王」でも要のシーンとなる「敗者髪切りデスマッチ」は、実際に1985年8月にテレビ放送された。流血まみれの激しい戦いの末、ダンプ松本に敗れた長与千種が丸刈りにされた。その姿に多くの長与ファンが涙し、中継したテレビ局に抗議が殺到したそうだ。

テレビでその様子が放映されたというのも今ではにわかに信じがたいが、本作が面白いのは、そうした80年代の熱狂が映像で再現されているところにもあるだろう。

また、ジャガー横田やブル中野といった、本作ではメインキャラクターではない人物たちでさえ、名前を知られた実在のスターぞろい。本当にいるスターたちの最盛期を本人の名前そのままで役者たちが好演しているリアリティ感が、「極悪女王」をさらにおもしろいものに引き立てている。

まだ、本作を観ていないという方はNetflixにて独占配信中なのでご覧になってはいかがだろうか?

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Netflixシリーズ「極悪女王」

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