人生には大切な〝別れ〟がある 『恋するムービー』がくれた、もうひとつの〝はじまり〟

生きていれば必ず大切な人との別れが訪れる。両親や兄妹との死別、大切だった恋人との破局。生まれてくる命の喜びと共に、大切な人との別れもまた人生の大切なハイライトとなる。

『恋するムービー』ではそんな〝別れ〟に傷つき、傷跡が癒えぬまま生きる4人の男女が描かれる。

父を死なせてしまったと後悔する人、両親の代わりに育ててくれた兄の心の闇に翻弄される人、青春時代を共に過ごし最高の恋愛を経験しながらも別れを選ばざるを得なかった男女。

この物語はそんな大切な人たちとの〝別れ〟に意味を見出し、新しい未来へと歩き出す若者たちの青春ドラマでもある。

誰よりも自分のことを愛してくれるはずの父は、娘よりも映画を優先する人だった。

冷たかったわけでも、暴力的だったわけでもない。優しくはあったが、父の愛情はすべて映画に注がれていた。

もっと自分を見てほしい。そう願ったムビだったが、父はたいしておもしろくもない映画作品を作ることに情熱を燃やし、そのための資金を捻出するために家族を犠牲にして働いた。

結果的に父は過労による事故で死ぬことになる。

大切な人が自分ではなく、他のことを愛し、消えてしまう不安。そんな重荷を背負ったムビはコ・ギョムと出会うことで変わっていく。

亡くなった両親の代わりに自分を育ててくれた兄はいつも優しかった。自分のことよりも弟であるギョムのことを考えてくれていた。

だけど、兄はいつも何かを諦めているようだった。人生の喜びも、生きることさえも。

そしてギョムもまた幸せと不幸を等価交換で考えてしまうクセがあった。良いことがあれば、必ず同じだけの不幸がある。

そんな不安を表に出さないよう振る舞うギョムだが、時折「人間として壊れてしまう」ことがある。

自分を襲う不幸に耐えきれなくなって、ずっと考え込んでしまうのだ。大切な人と連絡を取れなくなるほど考え込んでしまう。

そんなギョムを幼いころから救ってきたのが映画だった。映画は幸福の後に不幸は来ない。世界はどんな風にだって変えられる。映画の世界だけがギョムにとって現実から逃げ込める場所だった。

高校生のころから付き合い、7年間も「最高の恋」を経験したシジュンとジュアは記念日に別れてしまう。

医者の家系に生まれ頭も良く、何不自由なく暮らすシジュンはジュアに喜んでもらいたいがために音楽を作りつづけていたが、大切な彼女を失った。

その喪失感から過去の恋愛に固執し、結果の出ない音楽制作を続け、家族からも疎まれ卑屈になっていく毎日。

そんな時に映画の脚本家としてデビューした元恋人のジュアと再び出会う。

ジュアは新作の脚本のためにシジュンとの初恋をテーマにしたいと考える。そしてその映画の音楽を作れるのはシジュンだけだとも考えていた。

少し身勝手なように見える彼女にとって、シジュンとの恋は今でも大切な思い出であり、心の拠り所にもなっている。

だが、一方で彼女にとっては終わった恋であり、シジュンと関係を戻したいとは思っていない。

終わった恋に囚われたままの男と、終わった恋を大切な作品の題材にしたいと願う女。ふたりのすれ違いは、観る者に時にもどかしく、時に甘酸っぱくうつる。

本作は結局〝別れ〟からは逃れられないということを物語を通して私たちに突きつけてくる。

しかし〝別れ〟がきっかけとなって生まれる〝はじまり〟があることも同時に伝えてくれるのだ。

〝別れ〟に苦しみ、立ち止まっているすべての人たちの背中をそっと押してくれる。

そんな青春ロマンス『恋するムービー』は「Netflix」で独占配信中だ。韓国ドラマ特有のドロドロした描写などはなく、穏やかで韓国ドラマ初心者の方にとっても見やすい作品となっている。