伝説の「赤い彗星」はいかにして誕生したのか――。
アニメ史に輝く金字塔『機動戦士ガンダム』。その最大のライバルであるシャア・アズナブルの知られざる過去を描いた名作『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』が、ついにNetflixで配信開始された。
サイド3の若き指導者ジオン・ダイクンの死、そして流転の運命に翻弄される兄妹、キャスバルとアルテイシア。
復讐の炎を燃やす少年がいかにしてその仮面を被り、戦場を赤く染めるに至ったのか。
宇宙世紀の裏側に隠された壮絶な人間ドラマがいま、幕を開ける。
Netflixで『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』が配信開始! シャア・アズナブルはいかにして誕生したか?
最終更新日:2026年02月03日
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』とは?
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は安彦良和の漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を原作とするOVAシリーズで、シャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)の生い立ちと一年戦争前夜を描いた作品です。
原作漫画には一年戦争後まで含まれていますが、OVAではキャスバル時代からルウム会戦(宇宙世紀0079年)の直前までが描かれ、いわば「アナザーUC」的な視点で物語が再構成されています。
主要エピソードは全6章からなり、それぞれ以下のような内容・見どころがあります
(以降ネタバレ注意)
第1話「青い瞳のキャスバル」(UC0068年)
宇宙世紀0068年、サイド3ムンゾ自治共和国。独立演説中のジオン・ダイクンが議会で急死する。
ダイクンの死後、サイド3ではデギン・ザビ率いるザビ家とジンバ・ラル一派の権力闘争が激化。ダイクンの遺児であるキャスバル(後のシャア)と妹アルテイシアは、ランバ・ラルに助けられ地球へと逃亡する。
二人はテアボロ・マスに養子として引き取られ、キャスバルはエドワウ・マス、アルテイシアはセイラ・マスへと名を変えて育てられることになる。
一方、サイド3ではザビ家によるクーデターが成功し、政権が確立。ギレン・ザビは対連邦戦争の準備を着々と進めていく。
見どころ
ダイクン暗殺疑惑やザビ家内部の陰謀、そして幼いキャスバルが殺害の危機から逃れ、新たな身分で生きることを余儀なくされる運命の転換点が描かれる。
第2話「哀しみのアルテイシア」(UC0071年)
ムンゾ脱出から3年後。キャスバル(エドワウ)とアルテイシア(セイラ)は、ジンバ・ラルとともに地球のテアボロ・マス邸で穏やかに暮らしていた。
しかし、ザビ家はサイド3を「ジオン自治共和国」と改称して独立を宣言。新兵器モビルワーカーの開発に着手し、地球に逃れたダイクン家の遺児たちへの追跡の手を緩めていない。
物語終盤、追っ手から逃れ切れず、暗殺の危機が迫る。ラル家とダイクン家の運命に不安が高まる。
見どころ
キャスバルたちの地球での暮らしぶりや、ザビ家による政治的圧力が描かれる。主人公たちの苦悩と、新しい生活の安泰が崩れゆく様子にフォーカス。
第3話「暁の蜂起」(UC0074–0077年)
宇宙世紀0074年。テキサス・コロニーを離れたエドワゥ・マスは、自分と瓜二つの容姿を持つ青年シャア・アズナブルと入れ替わる形でジオンの士官学校へ入学。正体を隠したまま、ザビ家への復讐を胸に牙を研ぐ。
士官学校でシャアが出会ったのは、ジオン公国の総帥デギン・ザビの末息子、ガルマだった。エリートだが甘さの残るガルマに対し、シャアは巧みに近づき、その信頼を勝ち取る。「坊やだからさ」という後の名台詞に繋がる、二人の危うい関係性の原点がここにある。
サイド3(ジオン公国)では、駐留する地球連邦軍の横暴に対し、市民や学生たちの不満が爆発寸前まで高まっていた。そんな中、事故によって学生が犠牲になったことをきっかけに、シャアはガルマを焚きつけ、学生たちによる武装蜂起を画策する。
シャアの扇動により、ガルマをリーダーに据えた学生軍が連邦軍の駐屯地を急襲。シャアはガルマに手柄を立てさせつつ、自分は暗闇に乗じて連邦軍を圧倒する。わずかな装備の学生たちが、正規軍を武装解除させるという前代未聞の事件(暁の蜂起)を成功させる。
事件の責任を取る形で、ガルマを守るために除隊を申し出たシャア。しかし、これはすべて彼の計算通りだった。一人、地球へと降り立つシャア。そこで彼は、運命の少女ララァ・スンと出会うことになる。
見どころ
シャアがバイザー(仮面)を付けている理由に、納得感のある設定(目の色素が弱く光に過敏であるという嘘の診断)が付け加えられている。士官学校の校長として登場する若き日のドズル・ザビは、情に厚く学生たちを「わが息子たち」と呼ぶ人間臭さが、のちの悲劇を際立たせる。そして、力ではなく「言葉」と「心理」で人を操り、歴史を動かしていくシャアの恐ろしさが、MS戦がなくても十分に伝わる構成になっている。
第4話「運命の前夜」(UC0079年)
「暁の蜂起」によって士官学校を追放されたシャアは、地球へと向かう。そこで彼は運命の女性ララァ・スンと出会い、ついにジオン公国による独立戦争の火蓋が切られることになる。
カジノの用心棒をしていたシャアは、不思議な力を持つ少女ララァ・スンと出会う。劣悪な環境から彼女を救い出したシャアは、彼女の持つ「先見の明(ニュータイプとしての素養)」を見抜き、側近として重用するようになる。二人の運命的な絆が描かれる重要なパート。
月面にあるアナハイム・エレクトロニクス社の施設では、ジオン公国のミノフスキー博士によるMS開発が進められていた。ここでは、ガンダムの雛形とも言えるRCX-76(ガンキャノン最初期型)と、ジオンの完成された兵器MS-04(ブグ)やMS-05(ザクI)の圧倒的な性能差が浮き彫りになる。
ついにジオン公国は地球連邦政府に対し独立を宣言。人類史上最大の悲劇とされる「一年戦争」へと突入する。物語のラスト、赤いパーソナルカラーを施した最新鋭機MS-06S(ザクII)を前に、シャアが不敵に微笑むシーンは鳥肌もの。
見どころ
ついにシャアが専用の「赤いザク」を手に入れるまでのプロセスが描かれ、「赤い彗星」誕生の胎動を感じさせる。ランバ・ラル、ガイア、オルテガ、マッシュといった、後の『機動戦士ガンダム』でシャアを支え、あるいは好敵手となるキャラクターたちが全盛期の強さを見せつける一方で、サイド7ではアムロ・レイが父テム・レイの開発する「V作戦」の影を感じながら、平穏な、しかし少し屈折した日々を過ごしている対比も印象的だ。
第5話「激突 ルウム会戦」(UC0079年1月)
宇宙世紀0079年1月。ジオン公国軍は地球連邦政府に対し独立戦争を宣言。開戦からわずか1週間で、人類の総人口の半分が死に至るという惨状が繰り広げられる。
ジオン軍は、宇宙植民地(コロニー)を巨大な質量兵器として地球に落下させる「コロニー落とし(ブリティッシュ作戦)」を強行。標的は連邦軍の総司令部ジャブロー。この凄惨な作戦により、罪のない多くの市民が犠牲となる様子が克明に描かれ、戦争の残酷さが浮き彫りになる。
コロニー落としの阻止を試みる連邦軍と、それを完遂させようとするジオン軍。両軍の対立は決定的となり、物語の舞台はついに「ルウム戦役」へと突入する。
ここでは、政治的な駆け引きや、ザビ家内部の権力闘争といった、ORIGINならではのドロドロとした人間模様も加速していく。
サイド5(ルウム)周辺宙域にて、連邦軍の圧倒的な艦隊規模を誇るティアンム艦隊と、ジオン公国軍の宇宙攻撃軍が激突。ジオン軍は、数で勝る連邦軍に対し、新兵器「モビルスーツ」の機動力を活かした局地突破作戦を展開する。後の歴史に語り継がれる大決戦の火蓋が切られる。
サイド7で平穏に暮らすアムロやフラウ、そしてジオンの士官となったシャア。かつて兄妹として共に過ごしたセイラ(アルテイシア)は、戦火の中でそれぞれの立場から戦争を見つめることになる。
見どころ
「コロニー落とし」の描写は、ガンダム史の中でも特に壮絶で、人々の日常が巨大なコロニーの影に飲み込まれていくシーンは戦争の恐怖を肌で感じさせる。戦艦の主砲が当たらない超高速の機動兵器モビルスーツ。ザクが連邦軍の巨大戦艦を次々と屠っていく様は、「戦争のルールが変わった瞬間」を象徴している。そして、復讐のためにジオン軍を意のままに操ろうとするシャアの冷徹な知略。彼が一人で戦局をひっくり返す「赤い彗星」としての覚醒前夜の緊張感が見どころだ。
第6話「誕生 赤い彗星」(UC0079年1月23日)
舞台は宇宙世紀0079年1月23日。ジオン公国軍と地球連邦軍の全面戦争が始まり、開戦直後の混乱の中、戦局を決定づける「ルウム戦役」が幕を開ける。
圧倒的な物量を誇る地球連邦軍の宇宙艦隊に対し、ジオン公国軍は人型兵器「モビルスーツ(MS)」を投入。赤いパーソナルカラーのザクIIに乗り込んだシャアは、驚異的なスピードで次々と連邦軍の戦艦を撃沈していく。「通常の3倍」の速度で迫りくるその姿に、連邦軍兵士たちは恐怖し、彼を「赤い彗星」と呼び始める。
ジオン軍の精鋭「黒い三連星」の手によって、連邦軍の最高司令官レビル将軍が捕虜となる。ジオン勝利の決定打かと思われたが、そこにはシャア、そしてデギン・ザビや側近たちの複雑な思惑が絡み合う。後に歴史を動かす「ジオンに兵なし」の演説へと繋がる、緊迫の政治劇が展開される。
一方、ジオンのMSの脅威を目の当たりにした連邦軍は、起死回生の一手として「V作戦」を本格始動。サイド7では、RX-78 ガンダムの最終調整が行われていた。若きアムロ・レイ、そしてフラウ・ボゥやカイ・シデンたちが、戦火に巻き込まれる直前の「束の間の日常」を過ごす様子が描かれる。
物語のラストは、サイド7へと向かうシャアの偵察部隊と、それを受け止めることになるホワイトベースの胎動で締めくくられる。ここから、すべての物語の原点である『機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)』の第1話へと繋がっていく。
見どころ
戦略家シャアの鮮烈な活躍がクライマックスを迎え、「赤い彗星」の伝説が確立される。レビル将軍捕虜をめぐる政治的駆け引き、そしてアムロのガンダム搭乗など、『ファーストガンダム』本編につながる出来事が暗示される。OVAシリーズではここまでが描かれ、以降の一年戦争本編はテレビシリーズや劇場版に委ねられる。
シャア・アズナブル(キャスバル)とララァ・スン
本作の主軸であるシャア・アズナブル(本名キャスバル・レム・ダイクン)は、生まれながらにしてジオン共和国創始者の長男として期待された。しかし父ジオン・ダイクンの突然の死とザビ家のクーデターによって幼少期を奪われ、幼い兄妹で過酷な運命を背負う。その後のシャアは、「キャスバル・ダイクンとしてザビ家への復讐に全てを賭けた悲劇的なヒーロー」へと変貌する。
OVAでは、その生い立ちから「どうしてシャアは仮面を着用し、『赤い彗星』と呼ばれる才人になったのか」を詳細に描いている。幼少期、キャスバルとセイラはランバ・ラルらの助力で地球に脱出し、テアボロ・マス家に引き取られてエドワウ/セイラ・マス兄妹となる。その後シャアはジオン公国軍士官となり、ガルマ・ザビと友情を築くなど身分を隠しつつザビ家に接近していく。
原作者・総監督の安彦良和氏は、テレビ版ガンダム当時「シャアの仮面は正体隠蔽と『描くのが面倒だから』」と率直に語っている。OVAではその仮面の由来にも若干のエピソードが盛り込まれており、シャア自身が「肖像画に自分の顔が晒される危険」を避けようとするなど、設定にリアリティが加えられている。
第4話でシャアは地球でララァ・スンと出会う。ララァはニュータイプの素質を持つ少女で、シャアとは言葉を超えた理解で結びつく。原作『ファーストガンダム』にも登場した名シーン(アムロとの共鳴を介した別れ)はOVAでも再現され、シャアに強い影響を与える。ララァの死はシャアに深い悲しみと怒りを与え、彼の人間ドラマに大きな重みを加えている。
これらの掘り下げにより、OVA版シャアは単なる「冷酷な宿命のライバル」以上の複雑な人物像として描かれている。実際、安彦監督は「シャアの生い立ちが描かれていなかったことが本作執筆の大きな動機」だと語っており、キャスバル期からの成長物語が丁寧に描き込まれている。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』が放つ、究極の映像美と圧倒的没入感
本作がアニメファンから絶大な支持を受ける理由は、そのドラマ性だけではない。最新技術と職人技が融合した、ハイブリッドな制作手法にこそ、その真髄がある。
「手描き」の魂が宿る3DCG
本作のメカニック描写は、サンライズD.I.D.スタジオが手掛ける高精細な3DCGによって構築されている。しかし、特筆すべきは「すべてをCG任せにしない」という徹底したこだわりだ。
演出陣が基本動作を作画で作成してからCGに落とし込むことで、CG特有の無機質さを排除。作画監督がCGカットにラフ原画チェックを入れることで、人間的な躍動感や、迫力ある見得といった「アニメならではの表現」を両立させている。
ベテラン勢が織りなすドラマチックな演出
総監督の安彦良和氏をはじめ、江上潔氏やカトキハジメ氏といったガンダムシリーズのレジェンドたちが集結。特に安彦氏自らが脚本・キャラクターデザインに関わったエピソード(第1・4・5・6話)では、原作漫画の濃密な空気感はそのままに、映像作品としての新たな解釈が加えられ、より重厚な歴史群像劇へと昇華されている。
物語を彩る壮大なオーケストラと楽曲
音楽面では、巨匠・服部隆之氏による重厚なオーケストラサウンドが、宇宙世紀のスケール感を演出。柴咲コウ、山崎まさよし、AYAといった実力派歌手による主題歌・挿入歌が、激しい戦闘シーンの裏にある人間模様を叙情的に引き立てる。劇場版として制作された本作ならではの迫力あるサウンドは、Netflixの視聴環境でも圧倒的な没入感をもたらしてくれる。
このように、映像・音響のすべてが「最高峰」を目指して作られた本作。スマホで気軽に楽しむのも良いが、ぜひ自宅の大きなスクリーンとスピーカーで、その技術の粋を体感してほしい一作だ。
原作・テレビシリーズとの違い・整合性
原作漫画『THE ORIGIN』はTV『ファーストガンダム』の正史をアレンジした作品だが、本作OVAはその中でも「シャア・セイラ編」と「ルウム編」のみを映像化している。アニメ化された「シャア・セイラ編」は原作漫画の第9~14巻にあたり、OVAは全体を3部構成(シャア・セイラ編/開戦編/ルウム編)で再編集している。
メカニック設定の変更点
連邦軍のモビルスーツは本作ではザクI以前からガンタンクが実戦配備されるなど古参機として扱われており、ガンキャノンもザクI対策として早期実戦投入された設定になっている。ザビ家側でもゲルググがルウム会戦までに量産配備されていたり、原作アニメでは試作機だったモビルアーマーが実戦投入されているなど、多くの開発計画が前倒し・実現されている。
物語の展開における変更点
ホワイトベースの航路変更やV作戦(ガンダム・ジム計画)の内容見直しなど、細かな設定修正が加えられている。
これら変更の多くは原作漫画でも設定されている部分だが、OVAでは演出や尺の都合で一部シーンが省略・改変されている。たとえばOVA版のテレビ放送再編集では、登場キャラクター相関の一部描写が省かれたり、OP映像がカットされる改変もあった。総じて、OVAは原作漫画のエッセンスを損なわずに再構成しつつ、映像表現に最適化した独自解釈が盛り込まれている。
『ORIGIN』の宇宙世紀における役割と歴史的重要性
『THE ORIGIN』はガンダム40周年プロジェクトの一環として制作され、公式設定や正史から自由な解釈を加えた「Another U.C.」的作品と位置づけられている。
一年戦争勃発以前のストーリーを詳述することで、ファンの長年の疑問(キャスバルの秘密、ララァとの出会い、ザビ家の内幕など)に答えるとともに、シリーズの歴史的事件を「より人間ドラマとして理解しやすくする」役割を果たしている。
実際、安彦監督は本作を『ファーストガンダム』の成り立ちを語る作品と評し、シャアやギレンといった登場人物たちの動機・背景を整合的に再構築した。本OVAは一年戦争をリアルタイムで描くのではなく、後付けの歴史小説のように「既定路線」の事件をドラマティックに再現している。公式設定と矛盾する部分もあるが、それらも「歴史漫画的」な脚色として許容されており、結果としてUC世界観に新たな深みを与えた。
さらに本作の完成により、原作漫画の全貌がメディアミックスで提示され、ギャラリー(2022年開催)やVRコンテンツ展開など、ガンダムシリーズの歴史を振り返る契機ともなっている。
このように、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』OVAシリーズは、シャア・アズナブルの新たな解釈を提示し、従来のファーストガンダム世界を再評価させる重要な作品だ。作画・演出・音楽といった映像芸術面でも高い評価を受け、ガンダムファンにとって必見の映像作品となっている。