俳優としても活動している筆者が「Hulu」や「Netflix」など、動画配信サービスの“オリジナル作品”をレビューしていく連載企画。
2回目となる今回は、Netflixで配信している『砂の城(原題:Sand Castle)』をレビューしていきます!
Netflix映画『砂の城』レビュー。一兵士から見た美談抜きの「戦争」とは
最終更新日:2017年05月01日
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砂の城
ジャンル:戦争映画、実話に基づくヒューマンドラマ
テーマ:戦争の厳しい現実・虚しさ
キャスト:ニコラス・ホルト、ローガン・マーシャル=グリーン、ニール・ブラウン・Jr、ボーナップ、グレン・パウエル
監督:フェルナンド・コインブラ
脚本:クリス・ローナ
上映時間:1時間53分
あらすじ
2003年、戦時中のイラクにて。
アメリカ軍の新米兵士マット・オークルは、常に死と隣り合わせの戦場にいた。「自由のため」ではなく、「学費のため」に戦場にやってきた自分を“場違い”だと感じながらも、与えられた任務を必死にこなす日々……。
そんなある日、オークルの部隊に新たな任務が下される。それは、アメリカの爆撃によって破壊された排水管の修理だった。
最前線で銃を手に戦うわけではない。すでに占領した村の一般市民に水を届けるだけ。
一見安全そうに見える任務に少し安堵するオークルだったが、現実は甘くはなかった。やがて彼はこの任務を通じて、戦争の厳しい現実や理不尽さ、そしてその先にある虚しさを痛いほど思い知ることになる……。
実体験を元に描かれるリアルなイラク戦争。新米兵士に共感しながら話が展開
本作は、実際にイラク戦争で2年間従軍していた脚本家クリス・ローナが、実体験を元に書いたシナリオだそうです。だからこそ、他の戦争映画とは一味違う“リアルな戦争”が描かれています。
物語は、戦争に対して前向きになれない新米兵士オークルを軸に描かれているため、観ているこちらも彼に共感しながら「戦争」について理解を深められる作品になっています。
内容的には、映画史に残る名作『戦場にかける橋』に近いものがありました。第一線で敵殲滅作戦を考えたり、ド派手な戦闘シーンがあったりするわけではなく、「人間」を描いたドラマ作品という印象の方が強かったです。
戦場という究極の状況に身を置き、変わっていってしまう主人公に注目
はじめは自分の手を車のドアで思いっきり挟んで傷つけ、ケガによって本国へ帰還しようとしていた主人公オークル。そんな逃げ腰だった彼ですが、戦場での生活を経て様々な経験をすることで、徐々に戦場へ執着するようになっていきます……。
イラク人との交流、仲間の死、繰り返される敵からの無慈悲な攻撃。戦場という特殊な状況で厳しい現実を知り、彼の心がどのように変化していくのか、注目です。
些細なシーンから「戦争」が垣間見える。やるせなさを感じずにはいられない
劇中で筆者の中で特に印象的だったのが、排水管の修理に協力してくれているイラク市民と、アメリカ兵が一緒に食事をしているシーンです。(※ストーリーのネタバレになるような話は出てきません。)
アメリカ兵は軍補給のペンネを、イラク人は妻が作ってくれたというチキン料理を、それぞれ食べています。そこで気のいい兵士が一人、イラク人に対し「うまそうだな! 互いの飯を交換しないか?」と持ち掛けます。
するとイラク人は、「チキンはやるよ。でもあんたのペンネはいらない。」と、アメリカ兵の渡す食料を頑なに拒否。ここで、やや不穏な空気が流れ始めます……。
「もしかしたら、毒か何かが……?」そんな疑念が、観ている筆者の中にも思わず生まれました。
周りのアメリカ兵たちは、冷たく諭すように「やめとけ」と忠告しますが、交換を持ち掛けた兵士は少しの逡巡の末にチキンをパクリ。
ここで何かが起こるのか!? と思いきや、チキンを食べた兵士は「うまいね! 奥さんにお礼を言っといてよ」と、イラク人に向かって笑いかけます。
ここでシーンは終了。これを見て、ようやく筆者はこの映画が描こうとしている「戦争」について理解できた気がしました。
私たちが暮らしている平和で安全な場所なら、食事をシェアすることは、なんてことのない楽しい出来事のはず。しかし、これが戦場という常に死と隣り合わせの状況で起こると、全く違う心理が働いてしまいます。
個人と個人では協力し合えるのに、国という大きなバックが見えた瞬間、その相手を疑ってしまう。国という大きな力を信じて支持し、その結果その力に縛られ、目の前の相手をきちんと見る事ができない……。
ここに、筆者は戦争が持つやるせなさや、人間の弱さを強く感じました。
「戦争」についての理解が深まる。故に、観ていて虚しくなる作品だった
以上でレビューは終了で、ここからは鑑賞を終えた筆者の感想です。
戦争映画の中にも色々な種類がありますが、『砂の城』は戦争についての理解が深まる作品だと思いました。
劇中で起こる出来事は実話を元にしているため、ド派手な戦争映画に比べるとこじんまりとしています。そのため、ドラマティックな展開を期待している人にはあまりオススメできないかもしれません。(筆者もこの点に関しては、少し肩透かしを食らった感がありました。)
しかし、実話を元にしているからこそのリアルさ。そして、そこに登場する人物たちの細やかな心理状態の描写には、かなり秀逸なものがあります。
戦争の厳しい現実や虚しさを、登場人物たちのリアルなドラマから感じてみたいという人は是非観てみて下さい!