『アドレセンス』といえば、Netflixの2025年の話題作。大人でも子どもでもない思春期は、アイデンティティが確立されつつあり、自分の「こうありたい」という憧れや願いとのギャップに葛藤する時期でもあります。心と体の成長がちぐはぐになり、自分自身でも自分の気持ちを制御できない。だからこそ、思春期の心を扱った作品には良作が多いのではないでしょうか。
ドラマ『アドレセンス』は、思春期の心の闇を扱う作品群の中でも特に生々しく、観る者の心をかき乱します。13歳の少年が同級生の少女を殺害した容疑で逮捕されるという衝撃的な事件を皮切りに、父と息子の関係性、子どもとSNSとの向き合い方とその危険性などが、息も詰まるようなリアリズムをもって描かれます。
ここでは、改めて『アドレセンス』の特筆すべき点に切り込むと共に、『アドレセンス』に匹敵するような衝撃作を求めているあなたにおすすめしたい良作ドラマを3本ご紹介します。


衝撃が再び胸を撃つ! 『アドレセンス』級に心えぐられる海外ドラマ3選
最終更新日:2025年06月18日

まずは『アドレセンス』を知る
『アドレセンス』は、ごく一般的な家庭、ミラー家の日常が突如として破られる場面から始まります。13歳の息子ジェイミー・ミラー(オーウェン・クーパー)が、同じ学校に通う女子生徒ケイティの殺害容疑で、武装した警察官によって自宅で逮捕されるのです。一見、内気で純朴そうに見えるジェイミーは、「僕はやってない」と容疑を頑なに否認します。
ジェイミーを逮捕したルーク・バスコム刑事(アシュリー・ウォルターズ)とミーシャ・フランク刑事(フェイ・マーセイ)、そしてジェイミーの精神鑑定を担当する心理療法士ブリオニー・アリストン(エリン・ドハティ)らをまじえ、事件の真相が明かされていきます。
本作は全4話で、各話が異なる時間軸と状況――逮捕当日の混乱、事件から3日後の学校での友人たちへの聞き込み調査、7か月後の少年院での心理療法士との面談、そして事件後の家族の再生への試み――が、それぞれおよそ1時間ワンカット(長回し)で描かれます。
観る者の心をざくざくえぐる本作。この1時間ワンカットという撮影手法が、恐ろしいほどの没入感と緊張感を生んでいることは間違いありません。

『アドレセンス』は私たちに何を問いかけているのか?
なぜ『アドレセンス』はこれほどまでに高い評価を得たのか、ここでは2つの項目から考えてみたいと思います。普段生活していたら、真正面から触れるのは避けてしまうような問題が見えてきます。
子どもとSNS
SNSでの誹謗中傷や過剰な承認欲求は、大人にとっても無視できない問題です。ましてや、自分という存在を手探りで築いていく思春期の子どもたちにとって、それは自己肯定感を根こそぎ奪いかねない「見えにくい暴力」でもあります。
実際、主人公ジェイミーも一見誹謗中傷には見えない言葉の暴力をSNSで受けていました。ですが、刑事がそのことに気づかずに捜査を進めていたことが途中で判明します。刑事は自らの息子によって、SNSに特有のスラングや悪意のこもった表現の意味を教えられるのです。そのときにようやく、「今の子どもたちがどんな世界で生きているのか」を垣間見ます。
男らしさと女らしさ
思春期は恋愛に悩む人が増えるだけでなく、「他人からどう見られているか」を強く意識し始める時期でもあります。SNSを通じて理想的な「男性像」や「女性像」が絶え間なく流れ込む現代において、「男らしくあらねば」「女らしく振る舞わねば」といったプレッシャーはより強く、より無意識に若者たちを縛っているのかもしれません。
Netflix『アドレセンス』の主人公ジェイミーの心の中には、ネットを通じて“有害な男らしさ”が芽生えています――本作は、そうした思想に触れた少年が何を起こし、どのような運命を辿っていくのか鋭く描き出しています。
『アドレセンス』のオリジナリティ
『アドレセンス』の魅力は衝撃的なストーリーやテーマ性だけではありません。その驚くべき撮影手法とそれがもたらす臨場感にもオリジナリティがあります。
約60分ワンカット
『アドレセンス』は1話がおよそ60分。これをワンカットで撮影することで、ドキュメンタリーのようなリアリズムが生まれ、ジェイミーをはじめとする登場人物の感情の揺れ動きがダイレクトに伝わってくるため、物語への没入感が高まります。視点の切り替えがなく、時間も飛躍しないため、その場に居合わせているような感覚になるのです。
圧倒的な演技力
どれほどストーリーやテーマに優れ、凝った撮影手法を駆使していたとしても、ここまで話題になるのは演者たちの力があるからこそ。特に、主人公のジェイミーを演じたオーウェン・クーパーは、本作がドラマデビュー作であるにもかかわらず、逮捕時の怯えた少年から、心理療法士との対話で見せる激昂、そして底知れぬ闇を感じさせる表情まで、驚くべき幅の広さとリアリティで演じきりました。
デビュー作で60分ワンカット。彼自身のメンタルが気になってしまうほど、ジェイミーの姿には現実感がありました。
さらに、本作の企画・製作・共同脚本にも名を連ねるスティーヴン・グレアムが演じる、ジェイミーの父・エディ。息子の罪と向き合う葛藤や愛情を力強く演じるだけでなく、エディ自身もまた、「父親とはどうあるべきか」「自分は親として正しかったのか」といった問いに迷い続ける存在として描かれます。
現代社会への鋭い問いかけ
本作は、単なる少年犯罪を描くドラマではなく、SNS社会におけるコミュニケーションとその(悪)影響、10代のメンタルヘルスの問題、ジェンダー観の歪み、家族関係といったさまざまな課題を描き出しています。
登場人物を自分や自分の家族に重ね合わせ、鋭い問いとして受け取りながら、無関係ではいられない現実として受け止めることになる――だからこそ本作は、観る者を深く揺さぶり、話題を呼んでいるのでしょう。
『アドレセンス』に匹敵する衝撃を得たいなら
『アドレセンス』のような衝撃を得られる作品はほかにも多く作られています。ここでは、『アドレセンス』に胸を打たれたという方におすすめしたい、動画配信サービスで観られる3つの作品をご紹介します。
『Defending Jacob(ジェイコブを守るため)』(2020年、アメリカ)
アメリカのマサチューセッツ州の小さな町を舞台にしたドラマ。主人公は検事補アンディ・バーバー(クリス・エヴァンス)で、彼の14歳の息子ジェイコブ(ジェイデン・マーテル)が、同級生の殺害容疑で逮捕されます。
アンディと妻ローリー(ミシェル・ドッカリー)は、息子の無実を信じますが、次々と現れる不利な証拠や、ジェイコブ自身の不可解な言動に翻弄され、家族は崩壊寸前に。家族の心理描写に加え、法定ミステリーの要素が盛り込まれた全8話です。Apple TV+のオリジナル作品で、初回なら7日間の無料トライアルを利用してタダで視聴することも可能です。
『Euphoria』(2019年~、アメリカ)
映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』などにも出演したゼンデイヤが、ドラッグ依存症のリハビリ施設から戻ったばかりの高校生を演じているドラマシリーズ。ドラッグやセックス、アイデンティティの模索、トラウマ、ソーシャルメディアへの依存、愛と友情のもつれなど、これでもかとティーンエイジャーたちを取り巻く生々しいテーマを扱っています。
ゼンデイヤはナレーターも兼任し、全8話(シーズン1)で若者たちの葛藤をスタイリッシュに描く衝撃作です。U-NEXTで独占見放題配信中。Amazonプライム・ビデオで有料レンタルして視聴することも可能です。国内での配信は現状ありませんが、アメリカでは2022年にシーズン2も公開されています。
『Elite』(2018年~、スペイン)
スペインの架空のエリート私立高校“ラス・エンシナス”を舞台にしたドラマ。主人公は労働者階級出身の3人の奨学生で、裕福な同級生との格差は衝突を生み、ついには殺人事件の渦中に巻き込まれていきます。
複雑に絡み合う恋愛模様や宗教的差別、カミングアウトの問題など、現代社会が抱える問題をスタイリッシュな映像と、サスペンスフルな展開で描きます。Netflixで視聴できます。
いつの時代も10代の悩みは深く果てがない
10代の若者が抱える葛藤をテーマにした作品は無数にあります。『アドレセンス』をはじめ、今回ご紹介したような作品は単なる娯楽として観るには重すぎたり、時には不快感を感じたりする場合もあるかもしれません。
ただ、きっとこれらの作品は、何とか10代を乗り越えてきた大人たちが描いてきたはずです。心がえぐられると分かっていてもつい観てしまうのは、見過ごすことができないからかもしれませんし、大人世代としてそこから何か新しい感情を得られるからかもしれません。「楽しむ」とはまた違うかもしれませんが、今回ご紹介した作品から、また新たな衝撃や発見を得てみてはいかがでしょうか。

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